環境問題への取組み
西濃運輸とロジスティクス
現在のトラック保有台数は、西濃運輸単体で約11,000台、年間のトラック輸送距離は約4.8億km以上に上る。近年は輸送事業を中核としながら、荷主へのロジスティクスサービスの提供に注力している。
ロジスティクスの定義
JIS物流用語によると、ロジスティクスとは、「物流の諸機能を高度化し、調達、生産、販売、回収などの分野を統合して需要と供給の適正化を図るとともに顧客満足を向上させ、あわせて環境保全及び安全対策をはじめ社会的課題への対応を目指す戦略的な経営管理」のことである。
上記の定義を踏まえ、当社は顧客満足の創出だけでなく、環境や社会に優しい物流システムを構築する責任があると考えている。
背景
当社の事業はドライバーを中心とする労働集約産業であり、労働人口減少に伴う労働力不足、特に深刻なドライバー不足への対応が喫緊の経営課題の1つである。この課題に対応するため、従来のようなトラック主体での全国輸送ネットワークを構築・維持していくという考え方を転換し、限られたドライバーで効率よく運び、かつ環境保全とドライバーの負担を減らす運び方を新たに構築していくことが、これからの物流システムに必要であると考えている。
運び方改革
そこで、特にドライバーの負担が大きい夜間運行の長距離路線便トラックの幹線輸送について、これまでの輸送方式を見つめ直し、路線便の「運び方改革」に着手した。
当社はこれまでにもドライバーへのエコドライブ教育や集配車両(中型車)のハイブリッド車の導入を積極的に行ってきた。今回、特別積合せ貨物運送事業における路線便の「運び方改革」では、エコドライブによる燃費改善などの個々の精度向上策のみで満足せずに、さらなる環境保全と労働力不足への対応を目的に、「トラックと鉄道」「トラックと船舶」といったモーダルシフトや新型車両の導入に取り組んだ。「鉄道」「船舶」でのダイヤグラム化された定刻出発・定刻到着サービスを従来の幹線便ネットワークに取り入れることで「集荷~幹線輸送~配達」という輸送業界全体のさらなる物流効率化も期待できる。
モーダルシフト
トラックで行われている幹線輸送を、船舶や鉄道などの他の輸送手段での輸送に変更すること。鉄道や船舶はトラックと比べ、環境負荷が小さいため、環境保全の側面から有効な対策である。
また、ドライバーの負担も、従来の長距離輸送から、鉄道や船舶の輸送拠点までと短縮されるため小さくなる。
参照:「物流:モーダルシフトとは‐国土交通省」 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/modalshift.html
取り組みの概要と実績
5つの「運び方改革」
路線便の「運び方改革」では、ドライバーの労働力不足への対応と社会・環境への負荷軽減を図るべく、5つの「運び方改革」に取り組んだ。
「運び方改革」にあたっては、特別積合せ貨物運送サービスの特徴である”スピード”、”定期・定刻性”、”混載(シェアリング)”という3つの優位性について、「現状のサービスレベルを落とさない」という前提条件の下で取り組みを進めた。
1.リレー化による東京・大阪・九州間の特別積合せ貨物の鉄道モーダルシフト
2017年5月より、リレー化による鉄道モーダルシフトを開始した。これは関東拠点ー大阪貨物ターミナル駅ー九州拠点間で実施し、対象区間の輸送をコンテナ専用車両によるトラック輸送とコンテナ輸送を組み合わせ、雌雄コンテナをトラック輸送した後、鉄道輸送へリレー化を行うというモーダルシフトを行った事例である。
以前は関東拠点から九州拠点への幹線輸送については、大型トラックにて運行を行っており、輸送距離も長いためドライバー負担と環境への影響が課題となっていた。また、関東ー関西間の幹線輸送では、往路の関西から関東へ運ぶ貨物の寮に比べ、復路の関東から関西へ運ぶ貨物の量が2割程度少なく、東西間での物量のアンバランスが発生しており、幹線便の往復運行の積載率向上が課題であった。
そこで、関東から九州の幹線輸送については、関東―大阪間にコンテナ専用車両を導入し、大阪までの運行をコンテナ専用車両で行った後、大阪貨物ターミナル駅へコンテナを持ち込み、その後、鉄道コンテナにて九州まで輸送を行うこととした。
このリレー方式により、トラックによる長距離輸送の削減及び関東発関西行の運行便数を削減し、1台当たりの積載率の向上が図られた。これらの取り組みの結果、CO2排出量を年間で551.2t(26.1%減)削減することができた。
2.一部貸切列車を利用した鉄道輸送へのモーダルシフト
2018年5月より吹田貨物ターミナル駅~郡山貨物ターミナル駅~仙台港駅間で日本貨物鉄道株式会社(以下JR貨物)様の協力を得て、貨物専用列車「カンガルーライナーSS60号」の運行が始まった。
このモーダルシフトでは一度に60台もの大型トラックの運行を切り替えなければならず、当社にとって大きな変換点であった。以前は関西拠点→東北拠点間、東北拠点→関西拠点間は各支店からそれぞれ大型トラックにて幹線輸送を行っており、上記区間を鉄道輸送に切り替えるにあたり、JR貨物様には幹線トラックの運行時間に合わせた時刻での貨物列車の設定をしていただいた。列車編成は20両あり、このうち当社が専用貸切枠を持つのは15両(残り5両は一般枠)である。
吹田貨物ターミナル駅~郡山貨物ターミナル駅~仙台港駅間を毎日上下1本ずつ運行し、合わせて大型トラック60台分の貨物を運ぶことが可能となった。
大型トラックのみで幹線輸送を行っていた際に排出していたCO2排出量は、年間で11,558tであったが、「カンガルーライナー60号」を活用した幹線輸送では、CO2排出量は年間で約2,668tとなり、約87%のCO2排出量を削減することができた。
3.特別積合せ貨物のRORO船へのモーダルシフト
RORO船
正式名称はRoll-on Roll-off ship。貨物をトラックや荷台ごと輸送できる船舶のこと。
出発時には船にトレーラーが乗り込み、貨物を荷台ごと降ろして(Roll-on)下船する。
到着時には船にトレーラーが乗り込み、貨物を連結して(Roll-off)下船する。
参照元:RORO船 https://www.nittsu.co.jp/support/words/pqrs/roll-on-roll-off-ship.html
2019年6月より、「RORO船」による幹線輸送を東京ー佐賀間で開始した。対象区間の幹線輸送には新たに20tトラクターの牽引によるシャーシを活用することでインターモーダル輸送を実現した。
インターモーダル輸送
途中で積み替えることなく、船舶、鉄道、トラックなど複数の輸送機関を使用したDoor-to-Doorの輸送のこと。日本語では「複合一貫輸送」と訳される。
参照元:インターモーダル輸送 https://www.nittsu.co.jp/support/words/a/inter-modal-transportation.html
以前は足立支店から鳥栖支店までの幹線輸送を大型トラックで行っており、その幹線輸送距離は約1,150kmであったが、「RORO船」活用による海上輸送に切り替えた結果、足立支店~有明港間の約30kmと、苅田港~鳥栖支店間の約100kmのの合計130kmのみがトラック輸送となった。
約1,000kmを海上輸送に切り替えることでトラックの輸送距離を約87%削減できた。全区間を大型トラックにて運行していた時は、年間のCO2排出量は147tとなり、年間のCO2排出量を約39%削減することができた。
また、RORO船へのモーダルシフトで、ドライバーの運転時間および拘束時間の削減も図られ、年間で約3,780時間(約87.5%)を削減することができた。さらに同様の取組みで、沼津支店・静岡支店~大分港間でも海上輸送への切り替えを行った。
4.車両長25m連結ダブルトラックの導入
2018年3月より、「ダブル連結トラック」の実証実験に参画する形で運行を開始した。翌年1月の特殊車両通行許可基準の車両長緩和を受けて、正式に幹線輸送に全長25mのダブル連結トラック(大型トラック2台分)を導入した。ダブル連結で運行しているのは小牧支店~藤枝支店間の約180kmでこの区間を日々2台で相互に運行している。
全体の概要としては、四日市支店で富士支店及び沼津支店行きの貨物を10tトラック(連結時の牽引車両)に積み込み、岐阜支店で藤枝支店及び沼津支店行の貨物をセミ・トレーラ(連結時の後部車両)に積み込む。それぞれの支店から出発した2台のトラックが小牧支店に立ち寄り、トラックとトレーラを連結し、ダブル連結の状態で小牧支店から藤枝支店まで運行し、藤枝支店に到着次第、再び連結された車両を開放し、それぞれの最終支店に向けて運行している。
従来は2人のドライバーが2台の大型トラックを運行させていたが、車両構造のイノベーションと道路交通法の規制緩和により、ダブル連結の運行が可能となった。対象区間については、ドライバー1人で大型トラック2台分の貨物が運べるようになるだけでなく、牽引運行のため、CO2排出量も抑制され、環境にも配慮した運行を実現できた。
ダブル連結トラックの運行については、国土交通省の実証実験から参画しており、何もかもが手探りの中でのスタートとなった。安全最優先の観点から、実際に何度もダブル連結トラックの運行車両の後ろから別車で追走し、車両の挙動や周囲への影響を確認したり、日々ダブル連結トラックを運行する乗務員から気になる点をヒアリングしたり、様々な改善と安全策を実施し、現在に至っている。また、ダブル連結トラックでの幹線輸送に関しては、ヤマト運輸株式会社、日本通運株式会社、日本郵便株式会社との4社共同で大阪~神奈川間の共同運行を実施している。
5.大型ハイブリッドトラックの導入
2019年9月より、「大型ハイブリッドトラック」での運行を開始した。導入した車両は、日野自動車株式会社が開発した「日野プロフィアハイブリッド」で、世界初のハイブリッドシステム搭載車である。当社ではこの大型トラックを2台導入し、山口支店~大垣支店間での路線運行に交互に使用している。
この車両はAIを活用したハイブリッド制御機能を搭載しており、走行ルート100km先まで勾配を先読みし、走行負荷を予測して最適なハイブリッド制御を行うことができる。ドライバーの熟練度やクセによる運転技術の差をAIによりサポートすることで、環境にやさしい走行を実現する。導入後10カ月が経過したなかでは従来の大型トラックでの走行と比較して、約15%の燃費の上昇が認められた。
この実績を踏まえ、2020年8月より滋賀支店~東京支店間に新たなハイブリッド車2台の導入を行った。AIと活用したハイブリッド制御機能により、道路の高低差が多い運行コースの方が車両の運行効率が高まるとのアドバイスから次期運行コースの選定を行っており、今後も積極的に大型ハイブリッドトラックを導入していく予定である。
今後の展望
今後も当社は、「価値創造型SDGsの展開」を実施し、社会、環境、安全の社会的課題の解決に積極的に取り組み、「社会への持続的な価値創造」を実現していきたい。
また、将来に向けては輸送(物流)の省力化・無人化に取り組まなければならない。ダブル連結トラックのさらなる運用拡大、高速道路におけるトラック有人隊列走行、無人隊列走行の実現に向けて各関連会社と連携を深め、協力体制のもと取り組みを進めていきたい。
いろいろな方法で環境やドライバー不足に対応していることがわかった。