①危険予測運転の必要性
<目 次>
8.危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法
1)危険予測運転の必要性
2)危険予測のポイント
3)危険予知訓練
4)指差呼称及び安全指差
5)緊急時における適切な対応
初任ドライバー安全教育12項目の「 8. 危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法 」について学びます。
項目は、1)危険予測運転の必要性、2)危険予測のポイント、3)危険予知訓練、4)指差呼称及び安全指差、5)緊急時における適切な対応 に分かれています。
この項目では、 1) 危険予測運転の必要性について学びましょう。
Ⅰ運転における「見る」ことの重要性と限界
①運転に必要な情報の大半は目から得られる
ドライバーは、運転中に様々な情報を収集している。「前方に交差点がある」、「信号は青である」、「左折していく先の横断歩道に歩行者がいる」などの情報に基づいて、どのような運転行動をとるべきか判断しています。こうした運転に必要な情報の大半は、目によって得られています。運転免許の更新時に必ず視力検査が行われるのもそのためですが、安全な運転をするためには「目で良く見る」ということが非常に重要な条件となります。
◆運転に必要な視力
運転免許に必要な視力検査ではランドルト環検査が採用されています。大型免許・中型免許・準中型免許は、両眼で0.8以上かつ、一眼でそれぞれ0.5以上。普通免許は、両眼で0.7以上かつ、一眼でそれぞれ0.3以上であること。又は一眼の視力が0.3に満たない人、若しくは一眼が見えない人は他眼の視野が左右150度以上で視力が0.7以上であること。大型免許・中型免許・準中型免許では、深視力の検査では物を見る際の立体感や遠近感を検査します。三桿法の奥行知覚検査器により2.5mの距離で3回検査し、その平均誤差が2cm以下であることが定められています。深視力の検査では運転中の距離感などを把握できるかどうかを確認する検査を行います。
◆視力検査
視力検査で不合格になった場合は①その場で少し休んでから再び検査を受ける②後日あらためて検査を受ける③メガネやコンタクトレンズをつくり、後日再度検査を受けるかのいずれかを選ぶことになります。
それでも不合格の場合には、後日あらためて検査を受けなくてはいけません。不合格の場合は検査に必要な証紙などは返却され、次の検査のときに使用することができます。再検査時に新たに更新費用を支払う必要はありません。
◆視野には限界がある
視線を動かさずに見える範囲のことを視野といいます。静止して真っ直ぐに前方を見た場合の視野は、両目で200度程度です。その内色彩まで確認できるのは、前方を中心として左右それぞれ35度程度に過ぎず、それを超える範囲にあるものについては、色が分かりません。
◆視野には限界がある(高速走行時)
車の速度が速くなると、ハッキリ見える範囲は狭くなっていき、特に近くのものがぼやけて見えると言われています。その為、高速走行時には遠くは見えても近くのものはよく見えない状態になります。
◆静止視力と動体視力
一般に視力と言われる場合、それは静止視力を指しています。静止視力とは、視力検査を思い浮かべるとわかるように静止した状態で静止した対象を見る時の視力です。一方、車を運転している時は動いています。又、見ている対象も車や自転車なども動いています。このように動きながら、動いているものを見る時の視力を動体視力といいます。動体視力は、静止視力よりも低下します。さらにスピードを出せば出すほど低下すると言われています。したがってスピードを出し過ぎると見落としの危険性が高まります。
◆暗順応と明順応
明るいところから急に暗いところに入った時、しばらく何も見えない状態になり、やがて目が慣れて見えるようになってきます。これを「暗順応」と言います。逆に暗いところから急に明るいところに出た時、まぶしくて一瞬何も見えない状態となり、やがて見えるようになります。これを「明順応」と言います。暗順応は、明順応よりも慣れる時間がかかります。つまり、人の目は暗さに慣れる方が時間がかかるのです。昼間に暗いトンネルに入る時などは注意が必要です。
◆人は錯覚を起こす
人は常に物を正確に見ているわけではなく、錯覚を起こすことがある。図1のAとBの矢骨のab間の長さは同じですが、見た目はAの方が長く見えます。
また図2のA、B、Cの横線は平行線ですが、見た目には平行線に見えません。
こうした錯覚は誰にでも起こる正常な知覚です。大切なことは、人は錯覚をするものだということを自覚して、錯覚を起こしやすい場面を理解し、そうした場面では「これは錯覚かも」と意識することです。
◆錯覚を起こしやすいケース
大きい車は近くに見え、小さい車は遠くに見えます。
その為、右折時に二輪車が接近していても、まだ距離があると思って、先に行けると誤った判断をしてしまいます。
また、道幅が同じ程度の交差点だと自車線の方が広く見える。その為、自車線が優先だと勘違いして、徐行や一時停止を怠ることがあります。
急な勾配の下り坂が緩やかな勾配の下り坂に変わると、上り坂になったように感じやすく、そのためアクセルを踏んでしまいスピードを出し過ぎることがあります。
②対象を選択して見ている
目に映るものは全て見えているようで実はそうではなく、必要なものや興味のあるものを見ています。
※見るべき対象の選択を誤ると、危険の発見の遅れや見落としにつながります。
◆見ているようで見ていない漫然とした運転
目は前を向いていても、ぼんやりとしていたり考えごとをしていると、見ているようで実は何も見ていない「漫然運転」の状態に陥りやすくなります。その為、赤信号で停止している車に気づくのが遅れて追突事故を発生させてしまいます。漫然とした状態では適切なものを見ることはできません。危険を探そうという意識を持って、しっかりと見ることが大切です。
③見える危険と危険度の判断
図1は、前方を高齢者が横断しています。大半のドライバーは、このまま進行すると事故になると判断します。この場合の高齢者は「見える危険」です。では、高齢者が道路の右端に立っている図2はどうでしょうか?高齢者が横断してきそうだから、このまま進行すると事故になると判断するドライバーもいれば、高齢者は横断してこないからこのまま進行しても大丈夫と判断するドライバーもいるでしょう。事故になると判断したドライバーは、高齢者は見えている「危険」で、大丈夫と判断したドライバーは、見えているものの「危険ではない」ということになります。
◆危険は常に見えているとは限らない
見通しの悪い交差点の交差道路から進行してくる車や歩行者は見えないし、駐車車両の陰にいる子供は隠れて見えないことがあります。
大型トラックの後方を車間距離を取らずに追従していたため前方の状況がよくつかめずに前走車が車線変更して初めて前方に停車していた故障車に気づくことがあります。
◆気象状況が見えない危険を作る
雨や雪の日は、視界が悪くなり見えない危険が多くなり、特に霧がかかっているときは極端に視界が悪くなりますから、見えない危険の中を走行しているようなものです。
薄暮時や夜間も同じことが言えます。このように悪天候時や夜間は、危険を把握していない状態であり、安全性が低くなる時です。
Ⅱ交通場面の様々な死角
①構造上の死角
◆側方と後方の死角
運転席のドライバーからは見えない様々な死角があります。大きく分けると3つになります。
①車の構造上の死角
②他車が作る死角
③道路形状が作る死角 があります。
構造上、側方にはサイドミラーに映らない死角があります。
また、後方の死角が大きく、特にバン型の場合は運転席からほとんど後方が見えない状態になります。
②他車が作る死角
◆対向右折車が作る死角
右折時に対向右折車がいると、その後方が死角となり、対向車線の状況が確認しにくい状態となります。特に対向右折車が大型車の場合には死角が大きくなります。
◆対向左折車・右折車が作る死角
右折時に、対向車が左折して横断歩道の手前で停止すると、その向こう側が死角となって横断しようとする歩行者や自転車の確認ができないことがあります。同様に左折時に対向車が右折して横断歩道の手前で停止すると、その向こう側が死角となって横断者の有無が確認できないことがあります。
このように対向左折車や対向右折車が停止しているということは、横断しようとしている歩行者等がいるということですから横断者を発見できるよう徐行して、横断者の進行を妨げないようにしましょう!
◆前方の大型車が作る死角
大型車の後方を走行している場合は、前方の状況が見えにくくなり、交差点に接近している時には信号がよく確認できなくなります。前走車が黄信号で交差点に進入した場合、自車もそれに続いて進入すると信号が赤に変わっている場合に非常に危険になります。
◆駐車車両や渋滞車両が作る死角
路上に駐車車両があると、その向こう側が死角となります。特に背の低い子どもは駐車車両の陰に隠れて発見しにくく、それが飛び出し事故の大きな要因の一つになっています。また、対向車線が渋滞している時、渋滞車両の間から歩行者や自転車が横断してくることがあります。
③道路形状が作る死角
◆見通しの悪い交差点の死角
見通しの悪い交差点では、交差道路が死角となり、接近してくる車両が確認できません。一時停止の標識や標示がある場合は、必ず一時停止して安全確認をする必要があります。また、標識や標示が無い場合(優先道路を除く)は、徐行して安全を確認しましょう!
◆見通しの悪いカーブの死角
見通しの悪いカーブでは、カーブの先が死角となります。その為、対向車の発見が遅れやすくなります。カーブの手前で十分に減速するとともに、センターラインをはみ出さない走行が必要です。
◆上り坂の頂上付近の死角
上り坂は、頂上の向こう側が死角となり、自車からも対向車からも相手が見えない状態であるため発見が遅れます。坂の頂上付近では、徐行が義務付けられていますから、必ず徐行し、特にセンターライン無い坂道の場合には、対向車との衝突を避けるため、道路の左側を走行しましょう。
Ⅲ自分の中に潜む危険
◆慣れや油断・過信やおごり
初めてトラックのハンドルを握ったときは緊張感を持って慎重に運転していても、慣れてくると次第に気が緩み、油断が生じ、安全確認がおろそかになり、脇見をしたり、漫然とした運転に陥ることがあることや、自分は運転が上手いと過信に陥ることがあります。自分の運転技能を過信すると危険を感じなくなり乱暴な運転をする人がいます。又、トラックは車体が大きく、おごりも生じて他車を思いやる気持ちの薄れがあります。
◆急ぎ・焦り
運転中、急ぎや焦りの気持ちが強くなると、ささいなことでカッカしたりイライラして、冷静な判断ができなくなり、相手を思いやる余裕が失われます。
その為、スピードを出し過ぎる・車間を詰める・一時停止不履行・車線変更を繰り返すなどの危険な運転をしがちになります。急ぎや焦りを抑えるためには、時間にゆとりを持たせることが大切になります。
◆体調の悪さ
疲れや体調不良で車を運転すると注意力が低下して見落としが増え、判断力や危険を予測の能力が低下します。また、反応時間が遅くなったり、動作が緩慢になったり、正確なブレーキ操作やハンドル操作ができなくなる危険性があります。
YouTube動画版はこちら↓
1)危険予測運転の必要性 は、終了です。
それでは、次の項目を学びましょう!