①健康起因の事故と健康管理の必要性
<目 次>
11.健康管理の重要性
1)健康起因の事故と健康管理の必要性
①疾病が要因の交通事故
②健康診断の受診の必要性
③ストレスチェック等の受診の必要性
2)健康管理のポイント
①身体面の健康管理
②精神面の健康管理
初任ドライバー安全教育12項目の「 11.健康管理の重要性」について学びます。
項目は、1) 健康起因の事故と健康管理の必要性 、2) 健康管理のポイント に分かれています。
この項目では、 1)健康起因の事故と健康管理の必要性について学びましょう。
1) 健康起因の事故と健康管理の必要性
①疾病が要因の交通事故
■増加する健康起因事故
トラックドライバーの高齢化が進行する中、平成20年には28件だった健康起因事故件数は、令和元年には77件と3倍近くになっています。
※心筋梗塞や脳卒中を起こすと、ハンドル操作ができなくなる、ブレーキが踏めなくなるなど、重大事故につながります。
■健康起因事故のプロセス
健康起因事故の多くは、生活習慣や就労環境の悪化などから始まり、健康が悪化して病気となり、それが運転中に発症して事故に至るプロセスをたどると考えられます。
■睡眠時無呼吸症候群「SAS」
SASとは、「睡眠時無呼吸症候群」の略であり、睡眠中の気道の閉塞によって、断続的に無呼吸を繰り返し、まとまった眠りや質の良い眠りがとれないために日中に強い眠気に襲われる睡眠障害です。猛烈かつ突然、耐えがたい眠気に襲われるSASを放置しておくと、走行中に居眠り運転に陥ったり、最悪の場合は意識を失うこともあり、重大事故につながります。
■SASの症状と特徴
◆SASの症状と特徴
・大きないびきをかく
・睡眠中に呼吸が苦しそう、息が止まっている
と指摘される
・息が苦しくて目が覚める
・朝起きた時に頭痛や鈍重感がある・昼間に
強い眠気を感じる
SASにかかっていても、単純に疲労によるものだと認識することも多く、自分では気づきにくい特徴があり、そこに大きな危険性があります。
■SASと生活習慣病
SASは、生活習慣病と大きな関連があります。特に高血圧、糖尿病、脂質異常、肥満はSASの更なる悪化を招きます。
アルコールは、気道の筋肉を緩めて睡眠障害を悪化させます。
タバコも血中の酸素を低下させ、咽喉頭の炎症を起こして睡眠障害を悪化させます。
■SASと交通事故
多くの研究によって、SASは運転能力を低下させることが明らかになっています。
SASによる居眠り運転事故は、一人で運転中・高速道路や郊外の直線道路走行中・渋滞で定速走行中に、事故を起こすリスクがSASでない人に比べて数倍高いと言われています。
こうしたことから、自動車運転死傷行為処罰法において、「運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、人身事故を起こした場合」と定められおり、その中に「重度の眠気の症状を呈する睡眠障害」が含まれており、刑罰が科せられます。
■SASの検査と治療
SASスクリーニング検査は、早期発見を目的とし、確定診断のための精密検査が必要かどうか判断するための簡易な検査です。自宅でできるので、低負担で検査を受けられるメリットがあります。
重度のSASでも強い眠気を感じない場合もありますから、スクリーニング検査により客観的な検査を受けることが大切です。
■SASの精密検査
SASスクリーニング検査によってSASの疑いがある人は、早期に精密検査を受ける必要があります。
医療機関により診療科は異なりますが、睡眠外来、呼吸器内科、耳鼻科、循環器内科、一般内科などになります。
■SASの治療
精密検査によって治療が必要と判定された場合は治療を受けますが、治療方法には様々なものがあります。
代表的なものとしては、CPAP(持続陽圧呼吸療法)があります。有効性・即効性があり、ほとんど副作用がありません。
SASの治療には、減量、節酒、禁煙を心がけることが不可欠です。
※全国トラック協会のアンケート調査によると、CPAP治療者の80%超えるドライバーが、治療効果があると答えています。
■睡眠不足の危険性・適切な睡眠の取り方
睡眠不足のよる運転は、飲酒運転と同等の危険性があります。
※睡眠時間が6時間未満の者では、7時間の者に比べて居眠り運転の頻度が高いです。
理想の睡眠時間は7~8時間とされますが、適切な睡眠時間は年齢や個人によって異なります。
※もし眠気が生じたら、その晩は、いつもより1時間ほど早く寝るようにし、2時間以上睡眠時刻をずらさないことがポイントです。
■夜間は眠気が生じやすい・睡眠不足に陥らないための留意点
夜間運転では、ビールの中ビンを1本以上飲んだ時と同じ眠気が生じています。夜間運転時に眠気を感じた時は休憩や仮眠をとりましょう。
睡眠不足に陥らないためには、就寝前にスマホや携帯を使わない・シャワーではなく40℃の湯舟に15分つかる。・30分以上眠れない時は布団からいったん出て、眠くなったら布団に戻る・「睡眠禁止帯」である、AM10~12時、PM8~10時の睡眠を避ける・寝る2時間前までには食事、晩酌を済ませる、などの対策があります。
■脳血管疾患とは
脳血管疾患とは、脳血管が詰まることで起きる「脳梗塞」や、脳の血管が破れることで起きる「脳出血」「くも膜下出血」をいい、運転中に発症すると、意識を失ったり運動神経が麻痺して、運動不能状態となり非常に危険です。
脳血管疾患は、発症してからでは手遅れというケースがほとんどです。
■発症してからでは手遅れ
脳血管疾患は、発症してからでは手遅れというケースがほとんどですから、予防や早期発見が極めて重要になります。特に図のような初期症状がみられる場合は、決して軽く考えずに、すぐに専門医療機関で診察してもらう必要があります。
■脳血管疾患発症の危険性を把握
脳血管疾患では、健康診断で問診や血圧測定、血液検査や心電検査で脳血管疾患発症の危険性を把握するとともに、自宅や職場など普段の生活の中で血圧を測定し、自分の血圧値を把握する必要があります。
また、脳血管疾患は健康診断だけでは発見できないことがあります。高血圧・糖尿病・脂質異常症・不整脈・喫煙・過度な飲酒・肥満など、危険因子を持っているドライバーは、脳ドックや脳MRI健診を受けて、早期発見、早期治療に努めましょう。
■生活習慣の改善
脳血管疾患等の重大な病気は発症させないことが対決です。発症の原因となる危険因子を可能な限り遠ざけるよう、喫煙者であれば禁煙、塩分・脂肪分・高カロリーの食事を控える、カリウムが含まれる野菜・果物の接種、体重管理、体力に合った適度な運動など、日常の生活習慣を改善していくことが大切です。
■重大事故につながる疾患
交通事故に関連が特に高い心臓疾患としては、「冠動脈疾患」(心筋梗塞や狭心症)と「不整脈疾患」一時的に意識を失って倒れる「失神発作」があげられます。
大血管疾患の主な疾患「大動脈瘤」、「大動脈解離」です。
万が一、運転中にこれらが発症すれば、重大事故につながります。脳疾患と同様に予防と早期発見が極めて重要です。
■前兆を見逃さない
心臓疾患や大血管疾患を見逃さないためには、前兆や自覚症状を早めに把握することが大切です。
疾患を見逃さないために注意すべき症状は、「胸痛」「めまい・失神」「動悸」「呼吸困難」であり、4大症状といわれています。
表のような前兆や自覚症状がみられる場合は、専門医療機関で診察してもらう必要があります。
■失神発作の予防
失神とは、一時的に脳への血流が減少することで意識を失うことを指します。一過性に意識を失い倒れる(体位の維持ができない)状態で、通常1~2分以内で回復するものと定義されていますが、運転中の1~2分の失神は、間違いなく大事故となります。
血管迷走神経性失神は、睡眠不足や過労による精神的・肉体的ストレスが誘引となり発症することが多いのですが、本人がストレスを自覚していない場合もあり、規則的な生活習慣や過重労働の防止に努め、ストレスを軽減することが必要です。また、脱水や降圧薬・利尿薬により血圧低下をきたし、失神発作を起こすこともありますので、特に夏場は特に適度な水分補給が重要です。
■エコノミークラス症候群の予防
エコノミークラス症候群とは、長時間座ったままなど同じ姿勢でいると、足の静脈に血の塊(血栓)ができ、それが肺に運ばれて肺動脈を塞いでしまうもので、呼吸困難になったり血流が滞るなど危険な状態を引き起こします。
予防するためには、運転中において、こまめな水分補給、下肢を動かす、下車して休憩、深呼吸、体操を行うことが重要です。
予防効果のある圧迫ストッキングの着用も良いでしょう。
■運転中の花粉症対策
運転中に、花粉症による連続した「くしゃみ」などの症状を起こして前方を注視することができず、死傷事故が発生するケースがあります。
運転中に症状が出た場合は、速やかに安全な場所に停止し、運転を中止しましょう。また、花粉症対策でマスクをする場合、眼鏡に曇り止めを施しましょう。
■医師の診断を受けて薬の副作用を抑えること
花粉症の症状を抑える目的で処方される薬には、眠気を催したり、集中力・判断力・作業能力を低下させる副作用があります。特に市販薬では、こうした副作用を起こしやすい薬が多く使われていると言われています。一度、医師の診断を受け、職業ドライバーであることを伝え、適切な薬を処方してもらいましょう。
■薬の副作用
花粉症に限らず、薬の服用に関しては注意を払う必要があります。運転前に風邪薬を飲んだドライバーがトンネル内で意識を失った事故など、薬の副作用によって、眠気、めまい、意識消失など運転業務に支障をきたす場合が少なくありません。
道路交通法第66条において、「何人も、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両を運転してはならない」と定められており、服用する薬が、運転に影響のあるものでないか、しっかり確認する必要があります。
■気軽な服用は事故のもと
風邪は、多くの人がかかる身近な病気です。その為、市販薬を飲んでいる人が多くいます。市販の薬には、眠くなる成分(抗ヒスタミン剤)が入っているものがあり、だるさ、集中力の低下を招き、運転に支障をきたすものがあります。必ず医師に相談し、職業ドライバーであることや勤務形態などを明確に伝え、眠くならない薬を処方してもらいましょう。
※服用する薬が、運転に影響のあるものでないか確認する必要があります。
■コロナウイルスとは?
コロナウイルスには、風邪の原因となるウイルスや、「重症急性呼吸器症候群(SARS)」等のウイルスがあり、その一つが「新型コロナウイルス(SARS-CoV2)です。
ウイルスは粘膜などの細胞に付着して入り込んで増殖します。健康な皮膚には入り込むことができず、ウイルスは時間が経てば壊れます。
付着する物の種類によっては24時間~72時間くらい感染力が持続するといわれています。
■飛沫感染・接触感染
飛沫感染は、感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つば など)と一緒にウイルスが放出され、他者がそのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染します。感染注意すべき場面は、屋内などで、お互いの距離が十分に確保できない状況で一定時間を過ごす時です。
接触感染は、感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、自らの手で周りの物に触れると感染者のウイルスが付きます。非感染者がその部分に接触すると感染者のウイルスが非感染者の手に付着し、感染者に直接接触しなくても感染します。
感染場所としては、電車やバスのつり皮、ドアノブ、エスカレーターの手すり、スイッチなどがあります。
■運転中の新型コロナウイルス感染症拡大防止対策
通常トラックドライバーの業務の大半は運転であり、一人で過ごす時間が多いため、リスクは一見少なさそうに感じられますが、駐禁対策の為の添乗者が居る場合の運転席の密室化、荷役などの業務、休憩場所での会話など至るところで感染リスクは、潜んでいます。
拡大防止対策としては、
・定期的に窓を開けて車内を換気する。
・2名以上が同乗する場合は、マスクを着用する。
・相手先との直接接触を減らすように努める。
・荷済み前や荷卸し後は、車内の消毒に努める。
・気温・湿度の高い中での荷役において、人と十分な距離(2m以上)を確保できる場合にはマスクをはずす。
・マスク着用時は、負荷のかかる作業を避け、こまめに水分補給する。
・作業は一人で行う。複数名で行う場合は持ち場を分担する。
・共有のカートなど荷役機器を使用後は、手洗い(又はアルコール消毒)を行う。
などが挙げられます。
■アルコール検知器を使用時の留意点
新型コロナウイルス感染症対策として、手洗いとアルコール除菌が基本となっていますが、手指やアルコール検知器を除菌した直後の測定による誤検知があります。
☆アルコール検知器を使用する際は、室内を十分に換気するか、風通しの良い場所で行いましょう。
☆特にジェルタイプの場合、手指に付着したアルコールが完全に乾燥するまでに時間がかかるので、十分に石鹸で手洗いを行いアルコール検知器を使用しましょう。
■事務所での休憩・休息スペースでの感染防止対策
事務所での休憩・休息スペースでは、入退室の前後の手洗いの徹底、マスク着用・喫煙・休憩・休息時、屋外であっても2m以上の距離を確保・一定数以上が同時に休憩スペースに入らないようにしましょう。
・「3密(密集・密接・密閉)」を避ける。
・食堂等での飲食時、2m以上の距離を確保し、これが困難な場合でも対面で座らないよう配慮しましょう。
■日常生活における感染予防対策
新型コロナウイルス感染は、自分が感染しているかは、PCR検査等を受けなければわかりません。その為、普段から「新しい生活様式」を意識した生活を送ることが重要です。
・まめに手洗い、手指消毒
・咳エチケットの徹底
・こまめに換気
・「3密回避」
・健康に応じた運動や食事、禁煙の理解と実行
・毎朝の体温測定、健康チェック
・発熱又は、風邪の症状がある時はムリせず自宅で療養
■ストレスチェックとは
ストレスチェック制度とは、労働者の心理的なストレスが交通事故や労働災害の要因になることから、労働者自身のストレスへの気づきを促すとともに、ストレスの原因となる職場環境の改善へつなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としたものです。
ただし、労働者にはストレスチェックを受ける義務は科せられていません。
■ストレスチェック制度の流れ
ストレスチェックに用いる調査票については法的のものはありませんが、厚生労働省では、「職業性ストレス簡易調査票」を推奨しています。
自己採点用の判定項目は、7項目です。
①仕事の負担度
②仕事のコントロール
③仕事での対人関係
④仕事の適合性
⑤心理的ストレス反応
⑥身体的ストレス反応
⑦職場の支援 です。
要チェックの個数に該当しているかどうかで判定します。ストレスチェック制度の流れは、
ストレスチェック実施→本人に結果通知→本人から面接指導の申出→医師による面接指導の実施→医師から意見聴取→事後措置の実施、となります。
YouTube動画版はこちら↓
1)健康起因の事故と健康管理の必要性は終わります。
それでは、2)健康管理のポイントを学んでいきましょう!